2025年10月30日
京セラの創業者である稲盛和夫さんは、非常に多くの著作を遺されました。
稲盛さんの代表作としては、『生き方』(サンマーク出版)を挙げる人が多いと思います。
私も『生き方』は稲盛さんの考え方が集約された大変良い本だと思いますが、私は、稲盛さんの著作の中で最も読むべき本は『稲盛和夫の実学 経営と会計』(日経ビジネス人文庫)だと考えています。
『実学』の序章は、創業初期の京セラにおいて、経理・会計の素人である若き日の稲盛さんが、外部から招聘したベテラン経理部長に対して会計上の疑問をぶつける場面から始まります。
稲盛さんの疑問に対して、会計のプロである経理部長は、会計の教科書的観点から説明を行いますが、稲盛さんは通り一遍の説明には納得せず、何年にもわたって疑問を追及していきます。
遂に経理部長は、稲盛さんの指摘が会計の本質を突いていることに気が付き、以後稲盛さんの会計についての考え方に沿って京セラの会計システムを整え、京セラの驚異的な成長を支えていくことになります。
このエピソードを始めとして、『実学』を読むと、次から次へと数字に対する稲盛さんの厳しさを示す考え方やエピソードが語られていきます。
稲盛さんと言えば、心の正しさや人としての生き方を大切にする経営者というイメージがありますが、それは稲盛さんの半面あるいは表の顔であり、私としては、この『実学』を読んで、数字に対する徹底的な厳しさや物事に対する一切の妥協の無さが稲盛さんの本質だと感じました。
『実学』は、1998年(平成10年)の出版ですが、その内容は古びるどころか、むしろデフレが収束しインフレの時代に再突入した現在の日本でこそ、より一層経営者に対して、どのような考えに立って経営を行うべきかの正しい指針を示してくれるものだと思います。
ぜひ『稲盛和夫の実学 経営と会計』をお読み頂くことをお勧めします。
2025年09月29日
皆さんは、自分を器用な人間だと思いますか、不器用な人間だと思いますか。
不器用であるよりも器用な方がよい、要領が悪いよりも要領が良い方がよい。一般的には、そう思われていると思います。
しかし、私は不器用なことや要領の悪いことは、長い目で見れば決して悪いことではないと考えています。
経営コンサルタントの小宮一慶さんは、『「一流」の仕事』(日経ビジネス人文庫)でこのように語っています。
「一流になる人は、不器用な人が多いと思います。一人前になるのに時間がかかるので、
自分が人よりも優れていないことを若い頃に認識します。
そういう人ほど、一人前になってからもコツコツと努力を続けます。
不器用で時間がかかって一人前になった人は、早い時期に一人前になって満足している人をどこかで抜き去って、さらに努力を続けている間に一流になるのでしょう。」
また、元中日ドランゴンズ監督の落合博満さんは、『采配』(ダイヤモンド社)で、このように語っています。
「どんな仕事でも、ひとつの技術を身につけていく作業は地味で、相当の根気も必要になる。
技術を身につける際、習得するスピードが速いと、「センスがある」と評されるこことがある。
ただ、これは昔から指導者の悩みの種と言われているのだが、飲み込みの早い人は忘れるのも早いことが多い。
一方、内心でいらだつくらい飲み込みの悪い選手ほど、一度身につけた技術を安定して発揮し続ける傾向が強い。
彼らの取組みを見ていると、自分でつかみかけたり、アドバイスされた技術を忘れてはいけないと、何度も何度も反復練習している。
自分は不器用だと自覚している人ほど、しっかりと復習するものなのかもしれない。
技術事に関しては、飲み込みの早さが必ずしも高い習得率にはつながらない。
だからこそ、じっくりと復習することが大切というのが私の持論だ。」
このように、お二人とも、経営コンサルタントと野球監督という異なる立場から、努力や反復練習を積み重ねることの大切さを説かれています。
不器用な人間が、自らの不器用さを自覚し、その不器用さと向かい合い、たゆまず、努力を積み重ねる先に、真の実力が身につく。
不器用であることは悪くない、そのように私は思います。
2025年08月29日
私は、今年から、経営者の塾に2つ入りました。
1つは、様々な業界の中小企業経営者が集まる塾で、
もう1つは、税理士事務所の経営者が集まる塾です。
そこで新たに多くの方と知り合うことができています。
経営者には、自ら創業した経営者と、後継した経営者とがいます。
2つの経営塾にも、創業経営者、後継経営者のどちらの方もいます。
創業経営者の方からは、ゼロから一を立ち上げるエネルギーを感じますし、後継経営者の方からは、事業を継ぐことの苦労をものともしないヴァイタリティを感じます。
2つの経営塾には、様々な個性を持った方たちが集まっていて、私も参加するたびに大いに刺激を受けています。
創業経営者と後継経営者については、この2者を対比させて論じる風潮もあります(そういった書籍も多くあります)。
しかし、私自身が経営者になって最近思うことは、結局、創業者であろうと後継者であろうと、経営者である以上、行うべきことは何ら変わりはないということです。
より良い商品・サービスを提供してお客様に貢献する、自社の売上・利益をあげていく、社員に同業他社に負けない給与を支給する、そして、自社をより良くより強い組織にしていく。
そのために、会社の方針を決定し、その都度その都度経営判断を繰り返していく。
この点で創業者と後継者で何ら違いはありません。
今回、経営者塾に入り、多くの経営者の方と知り合って刺激を受けました。
経営者として成長していき、経営者としての務めを果たしていきたいと思います。
2025年07月18日
皆さん、「アウトプット」をしていますか。
樺沢紫苑さんという精神科医の方の著作で、ベストセラーとなった『アウトプット大全』という本があります。
(2018年8月初版発行。サンクチュアリ出版)
今から7年前に刊行された本ですが、現在も一般書店の棚に並んでおり、
継続して読まれ続けている本だということが分かります。
この本では、ただインプットしているだけでは不十分で、
アウトプットを行うことによってこそ人は成長するということが説かれています。
その中で、特に私がこの本に感銘を受けたのは、
アウトプットというものについてのハードルを下げてくれている点です。
つまり、普段、私たちが「アウトプット」という言葉を使うときには、まとまった文章を書くとか、
しっかりとしたパワーポイント資料を使ってプレゼンテーションをするなどのように、
かなり重めの内容を想定していることが多いのではないかと思います。
それに対し、この『アウトプット大全』の冒頭では、
「昨日の出来事を話すのも、立派なアウトプット」ということが語られています。
その際、「自分の意見」「自分の気付き」をひとつでもいいので盛り込むことで、
その話に価値が生まれ、話に耳を傾けて貰えるとのことです。
どうでしょうか。
ちょっとした出来事に、自分の感想・意見・気付きを付け加えて話すということであれば、
日常的に行っているのではないでしょうか。
それを少しだけ意識的に行うことで十分なアウトプットになるのです。
これなら自分にもできると思わせてくれます。
『アウトプット大全』では、他にも、アウトプットについての考え方や具体的で
ハードルの低いアウトプットのやりかたなどが書いてあります。
とても参考になる本なので、ぜひ一度読んでみて、アウトプットにつなげて欲しいと思います。
2025年06月19日
「失敗は成功の母」という言葉があります。
これに対し、「成功は失敗の母」というのが私の持論です。
例えば、躍進した企業がその後短期間に業績を悪化させてしまう、
出世した会社員が横柄になりパワハラをしたあげくクビになる、
仕事の個別事情を考慮せず何でも自分の勝ちパターンに持ち込もうとして失敗する、
などといったことをイメージしてください。
もちろん「成功すると最終的に失敗するおそれがあるから、最初から成功を目指さないでおきましょう。」
などと言いたいわけではありません。
事業において、仕事において、成功を目指すことは大前提です。
私が言いたいのは、一定の成功を収めた後、その成功が原因となって失敗に陥ることがないように
あらかじめ注意しておきましょう、ということです。
私は、成功が原因で失敗に至る理由は、大きく3つあると考えています。
・満足感
「もうそれなりに成功したからこれぐらいでいい。これからは現状維持で行こう。」
このような満足感が失敗を導く要因の一つです。
事業や仕事においては現状維持は目指すものではありません。
右肩下がりに落ち込んでいく未来しか待っていません。
・慢心
「おごる平家は久しからず」と昔から言われてきました。奢った気持ちでいれば、
事業や仕事において考えるべきことも考えなくなり、やがて失敗に至るでしょう。
・自己検証を怠ること
「俺のやり方が正しい。こうやっていれば大丈夫。」
人間は、あるやり方で成功すれば、その次も同じように成功すると考えがちです。
しかし、時代も状況も常に変化しています。
自分の考えや行いが適切かどうか、もっと良い方法はないのか、
そういったことを考えずにいれば、遠からず失敗が待ち構えているでしょう。
ユニクロの創業者である柳井正さんには『成功は一日で捨て去れ』(新潮文庫)という著作があります。
2000年代の初頭の時点で、ユニクロは、世間から大成功を納めた企業として見られていました。
柳井さん自身は、ユニクロはまだまだこれから成長していかなければならないと考えていましたが、
社内には、成功による満足感やほどほどで良いとの空気が漂うようになっていたようです。
この題名には、そうした社内の状況にかつを入れる意味があるようにも思います。
一時の成功に満足・慢心することなく、より一段階上の成功を目指しましょう。

西川 和志
税理士法人 森田経営
代表社員
昭和54年7月19日生
主な資格:税理士、弁護士